最愛なるもの

受け継がれるは赤い血

07/03/04UP

意識を取り戻して4ヶ月がたち、随分身体が動くようになってきた。
最初はあまりに思うようにならなくて、何度もかんしゃくを起こしかけたのだが、
3ヶ月を過ぎた頃から、グンと楽になった。
それまでは、俺はたいがいアリスと一緒に転がされていた。
アランは、そんな俺に根気よく付き合ってくれた。

それ以前の、ほぼ植物状態だった8ヶ月間。
意識があるのは、1日のうち数時間。
名前を呼べば、その瞬間は眼を開いたらしい。
しかし、またすぐに、吸い込まれるように瞼を閉じ、反応が無くなったときく。
まったく動くことが出来ず、喋ることも出来なかった俺。
そんな寝たきりの俺の身体を動かし続けてくれたのもヤツだ。
今、身体が動くのは、アイツのおかげだ。

俺のことだけではない。
あの日から、アイツはずっと、俺たちを守ってくれた。

アランがいてくれたから、今の俺たちがある。


だが、ここのところ、アイツの家を空ける時間が増えてきた。
それは、俺の身体が回復してくるのと比例しているようだ。




6月19日、世襲貴族制が国民議会によって廃止された。
そのニュースを運んできたのが、3日ほど家を出ていたアランだった。


その夜、ベロンベロンに酔ったヤツは、
心配そうなフランソワに支えられながら帰るなり、
俺の部屋に飛び込んできて、大声をまき散らかした。

「アンドレ、喜べ!
 世襲貴族制が廃止されたぞ!
 
 アハハハハハハハハーーーーーーーっ
 
 貴族なんて・・・、生まれなんて、もうナンの価値もなくなるさ!

 血筋だの、血統だのクソくらえだっっ!!!
 
 ディアンヌ、ナンで死ンじまったんだ!?
 
 なあ、フランソワ。
 お前、ディアンヌが生きていたら、どうだ?
 結婚したか?
 お前、ディアンヌのことド〜思う?
 
 うっ・・・ううううう・・・。
 
 アンドレ、バカだよな、こんな時代が来るはずだったのに、
 さっさと死ンじまいやがって!!!
 ディアンヌ・・・ディアンヌ・・・っっ

 アハハハハハッハーーーーーーーーー!!!
 バカは俺か?俺だよな〜〜〜。
 なんで、アンナ話、握りつぶさなかったんだろう。
 アンナヤツに、、、クソ野郎にっ・・・っぅ。
 
 ・・・俺がバカだったんだよなぁ。
 あはははははははーーーーーっーーーおおおぉぉ・・・」


騒ぎを聞きつけたオスカルとおばあちゃんは、
そんなヤツの姿を唖然としてみていた。


おばあちゃんは、きっとナンのことだか解らなかったと思うんだけど、
俺たちの顔色を見て、なんとなく悟ったのだと思う。

「アラン!静かにおしっっ!
 ウチには小さな赤ちゃんがいるんだよ!!!
 ビックリして起きちまうじゃないか。」

誰もとめようとしなかったアランの醜態に一発喝をいれて、
フランソワを追いたて、アランの部屋へとついて行った。


あとに残ったオスカルの腕の中には、アリスがすやすや眠っていた。
きっと、腹がふくれたところなのだろう。

オスカルの体調を考えて、昼間は、近所へ乳をもらいに行っているのだか、
夜、寝る前の1回だけ、オスカルの強い希望で、授乳している。
授乳には思う以上に体力が必要らしい。
オスカルの身体のことを考えると、本当なら辞めさせるべきなのであろうが・・・。

オスカルがベッドによってきて、
そっと、アリスを俺に添わせて寝かした。

「不思議だな。
 あんなにアランがわめいても起きないなんて・・・」
俺はいくら見ていても飽きない寝顔を覗き込んだ。

「お前、この子が一番好きな人を知っているのか?
 アランだぞ。
 誰が抱いてもグズル時にだって、アイツが抱っこしたら、
 ピタリと泣き止むのだから。」
くっくっくっ・・・とオスカルが笑う。

「そうか?
 偶然だろ?」

わざとたわいも無い話しをして、
その夜、俺たちは世襲貴族制廃止に関して、
一切、触れなかった。
アランのことにも触れられなかった。
混迷する世情、日々変わる制度。
そんな世の中から隔離され、何もできないでいる自分たちが情けない。
自分たちだけが幸せなのではないかと、後ろめたくもあった。


ここは静かで、やすらかで・・・。
出入りするアランが教えてくれる少しばかりの情報だけが、
世間と俺たちをつないでいた。





そのアランは、その夜の次の朝、
黙って出て行ったきり、帰ってきていない。
1週間以上、行き先を告げずに家を空けたのは初めてだ。

アリスがナントナク寂しそうに見えるのは、
俺の思い違いだろう。

子どもはキライなほうではないが、こんなにかわいいモノとは知らなかった。
俺と添い寝していたらスヤスヤ眠るっているのに、
俺がちょっと動こうと離れたら、とたんに眼を覚ます。

今も、そろそろ身体を動かす時間なので、
ベッドからそっと起き上がると、
大きい眼をパチッとあけて、俺をしっかり見上げる。

「とうさま、リハビリできないじゃないか・・・」
と、片手で抱き上げると、小さく開いた口から、
ヨダレをタラ〜〜〜ンと垂らし、ニッコリ微笑む。

「アンドレ、少し外を歩いてみるか?」
オスカルが小さくノックして、部屋に入ってくる。

俺は、7歳からのオスカルしか知らないけれど、
きっと、赤ちゃんの時、こうだったのだろうな・・・と思うと、
余計に可愛らしく感じる。

「アンドレ、右手は随分良いようだな。」
アリスを抱く俺を見て嬉しそうにオスカルが言う。

「ああ、これくらいの重さなら軽いぞ!
 お前を抱えるのはまだ無理かもしれないけどな。」

「結構だ。」
バカなことを言うと、冷ややかな目線を俺に送り、
俺の手からアリスを奪った。

「冷たいな、かあさまは。
 今、お前を見ていて、あの時のことを思い出していたのに。」
奪い返そうと手を伸ばしてアリスに話しかける。

「なんのことだ?」
オスカルは、そうはさせないと、
アリスを抱いて身体を少しひねった。

「添い寝していて、俺がベットから出ようとすると、
 スグ眼を覚まして、俺を困らせた誰かサンのあの日のことだよ。
 まだ、1年経ってないのになぁ、アリス。」

「!!!」

真っ赤になったオスカルをアリスごと引き寄せて抱きこんだ。

たった一夜だった。
その一夜がこんな幸福をもたらしてくれた。
ときどき全てが夢ではないかと恐ろしくなる。
いや、、、夢でないから、またとても心苦しくなるンだ。
幸せすぎて恐ろしいんだ。

もうすぐ、去年のあの日がやってくる。
オスカル・・・お前、自分を責めていないか?



苦しいけれど前を向いていこう。
平民と貴族の間に生まれたこの子。
この子と前を向いて歩こう。
俺たちにできることを精一杯していこう。
今までのように・・・な、オスカル。

「あうあう〜〜〜」

おとなしくしていたアリスが急に喋りだしたかと思うと、

「あぅっっち!!!」、

腕の中で静かにしていたオスカルが急に動いたので、俺の左腕に激痛が走った。

・・・と、そのとき、

「おホン」

おばあちゃんが戸口で俺を睨みつけていた。
おばあちゃん、、、俺たち夫婦なんだけど。。。
・・・っと・と、その後ろにアランが立っていた。

さすがに恥ずかしく、オスカルを解放すると、
アランが近寄ってきて、アリスを抱き上げた。

「おかえりアラン。」
久しぶりに見たヤツは、少し痩せただろうか?

「ハン。
 昼間っから、イチャついてんじゃねーよ!」
アランが立て抱きに抱えると、アリスはスグにアランの肩にしゃぶりつく。

「やめろ、チビスケ。
 お前のせいで、シャツがヨダレでベタベタになるんだ。
 ばあさん、アンヌのところへ早く行こうぜ。
 コイツ腹が減ってるんだ。
 さっさと乳をやらないと、俺のシャツがダメになる。」

「アラン、おかえり。
 あいかわらずもてているではないか。
 アリスが待ち焦がれていたぞ。
 見ろ、こんなにウレシそうだ。」
オスカルがおかしそうに言う。

「ガキ以下の赤ん坊に好かれても仕方ゴザイマセンっ。」
ワザとアランが拗ねてみせる。

「ぶ〜〜〜あ〜〜」

「あたしも頼りにしているよ。」
アランが1週間以上いなくて一番心配していたおばあちゃんが言う。

「う〜〜〜」

「ちっ!今度はババアか!
 タシて2で割っても、大年増じゃねぇか!
 やってられねーぜっっ!!!」

「あ〜あ〜」

「まっ!この子はまったく口が悪いねぇ!!!
 ソレさえなけりゃ、まずまずの男なのにねぇ。」

「うっく、あ〜〜〜」

「うるせーよばあさん。
 さっさといくぜ、用意はできてルンだろうな?
 モウロクして、それもままならねーのか?」

「ぶぅ〜〜〜〜〜」

「うるさいのはドッチだい・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」



「なかなかいいコンビではないか。
 アランがいないと、ばあや寂しいんだな。」
言い合いながら出て行く2人を見送り、
オスカルが安心したように言う。


アランは、ここを出て何を考えていたのだろう。
もうすぐ、本当にヤツはここを出て行ってしまう気がする。
アランは、これからの道を見つけたのだろうか?

「一番寂しいのは、やっぱりアリスだろうケドな」

「!」
ひつこいよ、オスカル!
そんなはず無いじゃないか!!!
どこをどうおせば、そんな考えにたどり着くんだ。

納得のいかない俺の顔をみてお前が笑う。



             これから進む道に、皆の幸せがありますように。

                                 1790年7月3日




あ〜〜〜、『受聖』を書いていて、どうしてもコッチの妄想が膨らみすぎたので、
先行アップさせていただきます〜〜〜。
時間軸がバラバラで、テキトーなお話、ごめんなさい〜〜〜。

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