Aurum ゆりこさま作 「オスカル……髪、束ねないのか?」 「え?」 唐突なアンドレの言葉に、私はショコラのカップを取り落としそうになった。 「いきなり何だ?」 「いや、いつも髪を下ろしたままじゃないか。たまには束ねないのか?」 そういえば、子供の頃は姉君達やばあや、侍女達……とかく周りがうるさかった。 束ねろだの伸ばせだの。(ばあやは普通の女性のように、結い上げたがっていたな) 結局、伸ばしたままのこんな髪型になってしまったのだが。 ……何でそうなってしまったのだろう?? 子供の頃は、鬱陶しいから伸ばそうとは思ってなかったんだが……。 「アンドレ、お前こそ伸ばさないのか?綺麗な黒髪なのに……」 そう言ってから後悔した。その綺麗な黒髪を、自分のわがままで切らせてしまったのは私だ。 切ってもまた伸びるんだから。そんな事を考えていた傲慢な私。 そしてあれ以来、アンドレは髪を束ねることをやめた。 失われた左目をなるべく自然に隠すために。 私の沈黙にわざと気が付かない態で、アンドレが少しおどけた調子で返す。 (それがお前の優しさって事くらい、鈍い私でも分かっているさ) 「似合わないか?結構この髪型気に入ってるんだが。女性に好評だぞ」 「誰に!?」 「おばあちゃんに」 ………………あ、そう。 「なぁ、束ねてみないか?オスカル」 「え??」 「オスカル、ここに座って。結ってあげるから」 そう言うが早いか、お前は胸元のタイを解き、姿見の前に椅子から手招きする。 「ほら、オスカル、こっちに座って」 あまりにもアンドレが楽しそうに笑うので、私はにわか髪結いの言葉に従う事にした。 「……おい、動くなよ」 「あ、ああ……」 私の髪をアンドレの長い手が手櫛でゆっくりと整え、指を髪の中に差し入れ、後ろへ流してゆく。 アンドレの指が動くたび、背中にぞくり、と寒気にも似た感覚が走る。 落ち着かない。全く落ち着かない。 そんな私の動揺に気付かないのか、あるいは気付かないふりをしているのか。 アンドレは、私の髪を首の後ろでひとつに纏めると、器用に手際よくタイで結び、そして言った。 「ほら、できた」 鏡には、慣れない髪形に戸惑う表情の自分が見える。首を傾げる。 いつもなら私の動きに合わせて動く、たまに鬱陶しいとすら感じる髪の流れが、今は無い。 「なんだか寂しいな……」 いつもなら首から肩に流れている髪が無いと……何だか寂しく感じる。 鏡の中のアンドレに向かって尋ねてみる。 「似合うか?……おかしくないか?」 「似合うよ」 「……そうか??」 何だかそうは見えないんだけどな。 「お前なら…何だって似合う」 「……」 さらりとそんな事を言うアンドレの瞳を、鏡越しでも直視できない。 頭の後ろでアンドレが笑う気配がする。 その余裕綽々の態度が何だか気に食わなくて、少し膨れていると、 アンドレが私の首に顔を寄せ、私の髪を一筋取り、これ以上はないくらいの柔らかい声で言った。 「本当にきれいだよ……麦の……金色だ」 ……? 麦の穂……??? ―……オスカルの髪って……― あ。 あれは。 あの言葉は。 「あ、あああ!!!」 思い出した! 「……どうした、オスカル?」 あれはいつのことだったか。もう忘れてしまったけど。 でも、そう、アンドレが言ったんだ。 「オスカルの髪って麦の穂みたいできれいだ。伸ばすときっとすっごくきれいだよ」と。 金の糸だとか、絹糸だとかは良く言われてた。でも本当は……自分の髪は好きじゃなかった。 薄い金色が、何だか自分を弱く見せるような気がして。 黒髪だったらもっと立派な"男"に見えたのかな、そんなことも考えていた。 "麦の穂" そんな風に言われたのは初めてだった。 そして髪の事を言われて、素直に嬉しいと思えたのも。 そう、アンドレがそう言ったから私は伸ばしてみようかなと思ったんだ。 他でもない、アンドレがそう言ったから。それだけの理由で。 それは……つまり……その頃から、私は…… 「ははは……なるほど……そうか……はははは」 「……おい、オスカル」 勝手に一人で笑う私を、アンドレは憮然とした顔で見つめてる。 でもなアンドレ、お前のせいだよ。 お前が悪い。 あんな小さな頃から、私の心を捕らえていたお前が悪いんだから。 Fin ========================================================================================== ええっと……一応、一応、誕生日記念モノとして…… 実はかなり前に書きかけて放置していた作品なので、どんなつもりで書いたのか 自分でもさっぱり覚えてないのですが……多分これ、「誓った後」のラブラブな頃のつもりで 書いたんだと思います。それなのに甘い雰囲気に持っていけない自分のガサツさ加減が 良く出てる作品だと思います……。 だって誓った後のオスカル様って結構すごいじゃないですか(何が?) なのに私が書くとこんないきなり笑い転げるオスカル様になってしまうんですよ。 やっぱりオスカル様は書くの難しいっす…… ちなみにAurumとはラテン語で黄金という意味です。 実家は二毛作地帯だったのですが、麦秋の頃の麦畑はそりゃぁきれいです。 稲穂も綺麗なのですが、麦の穂は透き通った金色でむっちゃ綺麗です。 それをよくむしって殻剥いて食ってたのは私。(仄かに甘くて美味しい)農家の方、ごめんなさい。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ちょっと・・・かなり、どきどきシーンがサラリとありません?! ひゃーーー。 検索かけてみたら、クリスマスリースって、「麦」と「ぶどう」がよく飾られるのですね? やーーーん。コレで、もう一本かけるヤンかいさー! 頼みましたぞー、ゆりこさま〜〜〜。 おほほほほほーーーーーーーーーーーーっ。 や〜〜〜、さらにラブラブ街道まっしぐらですな?! そんな、クリスマスの日に間に合うとかどうとかこうとか、言いっこなし! ぜんぜんオッケーですから〜〜〜っ。 どこまでも他力本願なる・ルン |
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