Auld Lang Syne (クリスマスの次の日の夜)

ゆりこさま作
12/25/04 UP



アンドレにチビすけのお守を任されるが、はっきり言ってこれはキツイ。
ただでさえガキってのはうるさくてしょうがないと言うのに、
そしてチビすけはただでさえ普通のガキよりうるさいというのに、
俺の前では、コイツのうるささが倍増しているような気がする。

今も夜も遅くなったので寝せようとしたんだが、また駄々をこねだした。
「アラン〜子守唄歌って〜」
「歌、って……お前幾つだと思ってんだ?」
「とうさまは歌ってくれるよ〜」
……アンドレ〜〜〜お前こいつの育児方法間違ってるぞ、絶対。
「ね〜うたって〜うたって〜」
布団の中でジタバタ暴れ始める。
「あーもーさっさと寝ろ」
「でね、でね、やさしい歌がいいな」
……お前な……人の話を聞けよ。
大体、俺がそんなリクエストに答えられるような歌を知っているわけがねぇだろうが。
そう返そうと思った時……とっておきの歌を思い出した。
子守唄じゃないが、とても優しい歌を。

しょうがねぇ、歌ってやるか。
放っておいたら朝まで暴れそうだ。

「じゃ……一回だけ歌ってやる」
「うん!」
チビすけが嬉しそうに頷く。
「一回だけだからな」
一曲だけ、一回だけ歌ってやろう。
あいつの好きだった歌を。

半分照れ隠しに息を吸い込み、そして歌いだす。
長い間歌う事もなかった曲だったが、
意外なほど滑らかに歌詞が浮かび上がった。

……そう、忘れるはずがない。あいつの好きだった曲を。


Should auld acquaintance be forgot,
And never brought to min'?
Should auld acquaintance be forgot,
And days o' lang syne?

旧き友は 思い出にのぼることもなく 忘れ去られるものだろうか
旧き友を あの懐かしい日々を 忘れてもよいものだろうか


あいつに初めて会ったのは、パリの士官学校に入学してからだった。
士官学校に居るよりも、どこかのアカデミーに居るのが似合いそうな奴だった。
(もっとも俺は、アカデミーに知り合いなぞいないが)
線の細い、穏やかな笑顔の男。
軍人には向きそうにもない奴。第一印象はそんな印象だった。

耳慣れない名前をいぶかしむと、祖先がイギリスの出だからと言っていた。
カトリックだった一家は、向こうの革命(清教徒革命)の時、フランスに逃げてきたのだと。
でも自分にとってはこのフランスが祖国だと。事あるごとに言っていた。

気があったのか、あっていないのかもよく分からなかった。
性格も育ちも、何もかも違っていたから。
ただ、一緒に居るのが一番心地よい相手ではあった。



そんなあいつが酒を飲むと、必ず歌う歌があった。
必ず歌いやがるから、こっちまで覚えてしまった曲。

We twa hae run about the braes;
And pow'w the gowans fine;
But we've wandered mony a weary foot
Sin' auld lang syne.

杯を捧げよう あの懐かしい日々に
変わらぬ友情の杯を あの懐かしい日々に


辛気臭い歌だ。いつもそう言うとあいつは笑った。
その笑みが何か余裕を感じて、俺はなんとなく悔しかったのだが。



将来への期待を感じつつ過ごした士官学校時代。
その穏やかな時代を変えたのは、新大陸の独立戦争だった。

海向こうの新大陸での革命。士官学校の内でも、その話題は絶える事がなかった。
ルソーやヴォルテールに傾倒した生徒の中は、その革命を
熱狂的に支持する奴がいた……が、それは口先だけの熱狂でしかなかった。
(そりゃそうだろう。海の向こうの戦なんぞ、首を突っ込むようなもんじゃない)
……あいつの他には。

「アメリカに行くよ」
まるで隣町に出かけるかのように、あいつはあっさりとそう言った。
「ラファイエット候に付いて行くよ」
一度言い出したら聞かない奴だったと、そのとき初めて思い知らされた。
何を言っても、どう言っても、やつの結論は変わらなかった。

そう言って奴は夜逃げ同然に、国王の渡航禁止令も無視して、
ラファイエット候と共にフランスを去った。

一度だけ、遠い海の向こうから手紙が届いた。赤茶けたインクの、相変わらずの筆致。
"新大陸の広さを伝えることが出来ないのが残念だよ" と。
まるで旅行に行っているかのような、暢気な手紙だと思った事を覚えている。
……そんな風に書いてしまうのが、あいつの性分だったのだろうが。


俺が士官学校を卒業し、少尉として仕官を始めた頃、
王令を無視したラファイエット候が熱狂的な歓迎の下に帰ってきた。
フランスを参戦させるために。

一緒にあいつも帰ってくるかと思っていたが……あいつは帰ってこなかった。
同期の連中が、ラファイエット候に聞いた所によると、
あいつは、ハドソン湾の戦闘での傷が元で、向こうで臥せっているという。

そして……その傷が元であいつが死んでしまったと、それだけを告げる手紙が届いたのは、
王令の下集められた志願兵が出航した直後の事だった。

ずっと前に別れてしまったお前の、亡骸も無い死は、俺にはあまりにも現実感が薄かった。
お前の居ない平穏な日々。それはそれまでの日々の続きであったから。
何事も無かったかのように帰って来る。自然とそんな風に感じていた。
また、飲み明かす日が来ると。あの歌声を聞く日が来ると。



お前と過ごした時間の数倍もの時が経ち、このフランスでも革命が起きた。
……そして、お前は現れなかった。
その時になってやっと分かった。お前が死んでいる事に。

革命を進めなくてはいけない時に、
革命を守るために立ち上がらなくてはいけなかった時に、お前は現れなかった。
祖国の革命のためなら、どんなに遠い地からも馳せ参じていたはずのお前が。

We twa hae paidl't i' the burn,
Frae mornin' sun till dine;
But seas between us braid hae roared
Sin' auld lang syne.

ずっと一緒だったあの日はもう 遠い日々のこと
今は あの広い海が僕らを隔てる

お前は遠い地で死んだ。もう戻る事はない。
それに気付いた時、俺は不意にこの曲の意味を理解した。
お前が俺に遺したただ一つの形見の、この曲の意味を。

杯を捧げよう あの懐かしい日々に
変わらぬ友情の杯を あの懐かしい日々に


あれから長い時が経った。
お前がいない時の流れが、お前の思い出を研ぎ澄まし、磨き上げていく。
そう、時が経つごとに、より美しく、透明な思い出へと。

この国の革命を見ることなく死んでいったお前。
だからお前はあの頃のままだ。若いまま…静かな笑顔のまま。
この歌だけを残して。
俺だけが年を取り……そして老いてゆく。

杯を捧げよう あの懐かしい日々に
変わらぬ友情の杯を あの懐かしい日々に



長い歌ではなかったのだが、
歌い終った頃にはチビすはもう、うとうとし始めていた。
それでも、上手くまわらない口で俺に尋ねる。
「……どん…な……歌なの??」
「古い友達と……酒を飲む歌だ」
「ふう……ん……」

「優しい……歌だ……ね……」
「ああ……」
とても優しい歌だ。
穏やかで優しく、変わることのない、あいつのような。
「ほら、もう寝ろ。明日はベルナールの所に行くからな」
「……うん」
その小さい返事から間をおかずに、静かな寝息が聞こえてくる。

暴れてずれた毛布を直してやって、静かに部屋を出る。
アンドレが子守り代だと言って、渡した酒を手にする。

今夜はこの歌のように酒を飲むとしよう。
二度と戻る事の無い、過ぎた日々を思い出しながら。
旧き友との、変わらぬ友情に杯を捧げながら。


1795年


Fin


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これ、る・ルンさまの「クリスマスとその次の日」の夜のイメージで……
Auld Lang Syne……ご存知「蛍の光」の原曲となった、スコットランド民謡で〜す。
ただし、この曲は1788年発表らしいから、↑のようなことにはならないのですが……。
(ただ、歌詞自体はもっと旧いらしいので〜許して〜)

自分で書いといてなんだけど〜歌を歌うアランって書いてて不思議〜。
(こういう芸能関係はむっちゃ疎そう)……アンドレは歌上手そうっす。
あくまで歌。楽器じゃなくて歌。そんな感じ。

歌詞はそのままですが〜日本語訳の方は微妙に言い回し等いじってます。
原曲は、結構明るくいメロディーなのでちょっとびっくり。

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チビ、よかったね〜。アランの歌声を聞けるなんて。そう無い事ですよね、絶対。
それに、子守唄代わりにだなんて、アランの低く小さい優しい声、、、って、
きっと、きっと、チビくらいしか、聞いた事無いのでは?
低く、ドスの効いた声なら、いっぱい聞いた事アル人いると思うけど・・・(^^;;;。

2002年から、2年たったのね・・・。
ははは・・・(ワラってゴマカス)。
その3部作は、ゆりこ様作「ノエルの誓い」からです〜。
途中のtorishさまのは、LINK切れてます(^^;;;ゴメリンコー。
このお話って、バレンタインまでアンドレ帰ってこなかったんだっけ?
わはははっははーーーっ。
                              バレンタイン更新は出来るのか!?>ワシ!!!な、る・ルン。


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